がんばれ!

住宅改修したいので同行して欲しいとケアマネから依頼を受けたので行ってきた。
居住空間が2階だが、脳血管障害で片麻痺となりどうしたら良いかという相談内容だった。
考えられるのは生活の拠点を2階から1階に移すことと、なんとか2階へ上がる方法を考えることだ。
階段は踊り場の無い廻り階段で、下肢装具をつけたご主人には厳しそうだ。
少し遅れて現場に到着すると、病院の作業療法士が2名、建築業者に指示を出していた。
2階への階段の手摺の位置を指定しているのだ。
遅れて行ったバツの悪さもあり、その様子を静観していたが、病院でやっているのだろう、ご主人と奥様に階段昇降の動作指導を始めた。
ケアマネはどうしたのかと思ったら、端っこで小さくなっている。
どうしたのと聞いたら「私の入る隙間がないんです。」と自信なさげに話す。
リハビリのプロと建築のプロがやりあっているところに、自分はとても入っていけないというのだ。
ケアマネはそのベースとなる職業が様々なので、こんな場合も良くある。
しかし、彼女が隅っこで小さくなっている間に、リハビリのプロと建築のプロはどんどん改修内容を決めていっている。
これなら私も出番はなさそうだ。
問題は、そのプロたちがやっているのは技術論の検討であって、総論、つまり退院してくる夫と妻の老夫婦のこれからの生活設計ではない。
これからどういう生活をしていくのかケアマネがリードしていかなくてどうするのか?
たしかに頑張れば2階の風呂は使えるようになるだろう。
しかし、そのためには人的介護力が不可欠であり、それを同じく年老いた妻がやるのはリスキーだ。
近くに住んでいる息子も毎晩仕事が遅いので、週末手伝ってもらってお風呂に入れようかと話す妻。
しかし、週1回ではなく毎日入りたい風呂好きの夫。
ただでさえ生活エリアが狭まってストレスが溜まるが、それを人的介護でクリアしようとすると介護者への負担が大きい。
じゃあ、どういう解決方法があるのかとマネジメントするのがケアマネージャーのはずである。
なんとか今までどおりに2階での生活をする方法は何か?
人的介護力とリスクを背負っての階段昇降はそのひとつでしかない。
ぐるっと見渡すと縦動線(つまりエレベーター)を作れる場所を見つけた。
一番小さい半畳程度のエレベーターなら既存の押入れを利用して作れそうである。
もちろんそれなりにお金が係るので、こんな話をすると「すぐに建築系の人間はお金使わせようと思って...」と作業療法士たちは怪訝な顔をした。
これはあくまでもひとつの方法例であり、やるやらないは家族がその家計状況を考えて判断すればよい。
手摺をつけることとエレベーターを設置することは同じ2階へ上がる方法として対等なのだ。
さて2階への昇降を諦め、1回での生活を模索すると幸いなことに2世帯同居を考えていた為、1階にも台所とトイレはある。
あとは風呂の問題をクリアすれば生活は出来そうだ。
一番簡単なのは外部のインフラを利用することだ。
しかし、夫は外ではなく、家の風呂に入りたいと言う。
ならばユニットバスを増築するか?幸いなことに隣接したガレージを利用できそうだ。
こうしたやり取りをケアマネはマネジメントしなければならない。
これらの選択肢を提示し、家族の判断を尊重する。
リハビリのプロも建築のプロも出しゃばってはいけない。
結局、一番声の大きい案に決まった。
階段の手摺である。
家族の選択が決まったのなら、最大限安全に昇降できるように提案しましょう。
見たところ、短下肢装具が階段の段鼻に引っかかりそうだ。
段鼻下に三角のすりつけ板のようなものを取り付けて引っかからないようにしなければならない。
奥さんと息子と言う具合に家族内介護力に頼るのではなく、ヘルパーを組み込むことでせめて2日に1回は昼間風呂に入れるようにしよう。
せっかく2階へあがったのだから、風呂上りは2階で湯疲れを癒すことも考えよう。
冬場の恩熱環境も重要だろう。
 
ケアマネは声の大きなプロたちを上手く操り、最善の生活設計が出来るように家族のサポートをしなければならない。
がんばれ!
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がんばれ! への1件のフィードバック

  1. tong のコメント:

    読みながら・・・私もエレベーター!! エレベーター!!と思いました。
    何故に手摺??? う~~~~~~~~~~~~~~~ん。。。
    私の母は手摺があっても、2階には上がれないので、(足腰が弱ってるので)
    手摺は後に後悔することになるような・・感じがしました。
    建築課の膨大な知識が顧客の意思が絶対であることの前に発揮できないなんて
    なんか悔しいし納得がいかない気分です。
    施主を前に講習会をした後で具体的な打ち合わせをするとか・・・
    いつかの将来、私にもそんな場面が来るのなら、うん、講習会してやる!
    (な~~~んて、まだっまだ建築家のケの字にもなってないのに、気持ちだけは・・・)
    生意気をお許しくださいませ。m(__)m

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