プライド

10日間におよぶオープンハウスもおかげさまでようやく終えることが出来ました。
延べ300人近い来場は十分成功だったと思います。
今回の展示ではメーカーや問屋の営業にもお手伝いいただきましたが、カタログの配布は一切禁止で、皆ギャルソンのいでたちで給仕にあたってもらいました。
工務店の2代目である阿部君は建築家を目指したいと私に以前語ってくれました。
それならばと私もお手伝いを申し出たのです。
彼の持つ建築家のイメージを私がきちんと把握できているのかはわかりませんが、今回は私のスタイルでオープンハウスを行うことにしました。
建築家なんてものは人気商売です。
クライアントから声をかけてもらってナンボですから、それをひたすら待ち続けなければならない。
それが結構辛いのですが、これを我慢できない人はきっと建築家にはなれないと思います。
食えなければ意味が無いと感じれば、とにかく営業に走り安仕事をとるでしょうが、それでは単なる図面屋にしかなれません。
建築家は思想を持った空間をつくりあげる芸術家ですから、それを安売りすることは自分の芸を安売りする三文役者と同じです。
自分を高い位置に置いておきたければ、じっと芸を磨きながら待ち続けることなのです。
私にも家族もあり生活がありますから、そんな仙人みたいなことだけをしていることは出来ません。
だから講師をやったりしますが、建築家としての安売りは絶対行わないというのは私が事務所を設立したときから一環してやっており、私が今も私であり続けることができた唯一の方法でした。
自分をしっかり社会に認識してもらうにはとにかく作品を見てもらうこと。
私の空間を理解してもらうのに、いわゆる住宅設備が邪魔になります。
最近の工務店の展示会というと、住宅設備の説明に明け暮れる感があります。
工務店だって、自分たちの技術力を見てもらわなければならないと思うのですが、最近は単なる物売りになってしまい、ひたすらメーカー協賛で商品説明ばかり。
住宅設備なんてものはお金を出せば買えるもの。
自分たちが作り上げる空間の価値をそんな設備でしか表現できないなんて、私的にはNGです。
だから商品説明なんてやってはいけない。お客様に説明を求められれば別ですが、自分から説明する必要はありません。
また引き渡す前の家だから、床を傷つけないように椅子を使わないという考え方もありますが、私は施主の了解をきちんととり、それなりの対応で椅子は必須と考えます。
なぜなら椅子は建築の原点だからです。
空間は目線が重要ですが、いつも立っているわけではありません。
居場所としての椅子とそこに座って感じる空間で勝負をかけたい。
だから今回のオープンハウスでは静かなジャズピアノと挽きたてのコーヒーとケーキというカフェスタイルにしたのです。
それには居場所としての椅子が重要なポイントになります。
商談のためにとにかく座れればよい程度の志では低すぎます。
あの空間を楽しんでもらうには椅子もそれなりのデザインが重要です。
途中、阿部君のお父さんからのクレームで椅子が撤去されたのが残念でした。
工務店の社長としてのお客様に引き渡す前の大切な建物だからという決断は尊重に値します。
しかし、空間を売ることを目指すならばなんとしてでも座ってもらわないと意味が無い。
最後の二日間は私のごり押しで私の自宅からサブリナチェアを運ばせましたが、あのデザインチェアに座って休んでいってもらえた人にはそうとうな満足を与えられたと思います。
最後のほうでとうとう建物にのぼりが立ってしまったのも私としては残念でした。
それはあまりに洒落が効き過ぎて、本当に住宅のオープンハウスではなく、お店だと誤解されたことが多かったことと、会場に到達できない人からのクレームへの対応でした。
それも十分理解に値するものです。
ただ、空間を見てもらうという観点から言えば、ファサードはとても重要で、今回の建物でもいかに周囲の住宅からの影響を打ち消し、その世界観を出すのかを勝負したはず。
それを打ち消すようにのぼりを周囲に回すのはやはり慎重にするべきだったのかもしれません。
むしろやるなら、そこに至れるように道路のポイントポイントに置くとかやりようはあったでしょう。
 
アンケートは取らない、商品説明はしないでいったいどうやって営業になるのかと最後のほうでは阿部君も随分葛藤したと思います。
あとはお声掛けを待つのみというのは本当に辛いでしょう。
しかし、もし阿部君が建築家を目指すならば、今回の体験を理解してもらいたいと思います。
今回のオープンハウスは工務店2代目の阿部君にとっても貴重な体験だったと思います。
今まで付き合った多くの工務店のジュニア達はこの試練に耐え切れずドロップアウトしていきました。
皆、親父から飛び出すことが出来なかったのです。
阿部君のDstyleもとりあえずこの1棟で走り始めました。
あとはプライドを捨てないで頑張って欲しいと思います。
カテゴリー: つぶやき パーマリンク

コメントを残す