生体医工学

先週の土曜日に私が顧問を務める「福祉住環境コーディネーターネットワーク(FJCN)」の第9回総会が柏崎で行われ、基調講演を新潟工科大学 工学部情報電子工学科の村上肇教授から頂きました。
演題は「長寿社会と工業技術」
うーん、どんな話をしてもらえるのか始まるまで判らない。
どんな難しい内容なのだろうと思いながら講演を聴き始めました。
村上先生は8年前に私が柏崎商工会議所主催の福祉住環境講座を受講頂いていましたが、その際はカジュアルな格好で、まさか大学の先生とは思ってもいませんでした。
それが8年ぶりに、今度は私が受講生としてお話を伺うというのも何かの縁です。
 
お話は演題とはうってかわってわかりやすいものでした。
もちろん素人向けにお話いただいているので当たり前ですが。
 
簡単に言うと 「人間」と「機械」の間にあるものが生体医工学であるということ。
「人間」はそれぞれ個体差があり、時変性(加齢による変化)がありますが、「機械」には均一性、非劣化が求められます。
まったく真逆にある「人間」と「機械」をうまく取り持つ為の技術が「生体医工学」なのです。
 
例えば水栓金具ですが、最近はレバーを下げると水が止まるという統一規格になりましたが、以前は下げると水が出るというのもありました。
生体医工学的に言うと、下げる→水が出る 上げる→止まる というのはすこぶる直感的で、人間に近いと言えます。
現在の規格になったのは、阪神大震災以降、物が落ちてレバーに当たったときにスイッチが入るのではなく、むしろ止まった方が安全であるという理由によります。
しかし、慣れるまでは一旦頭の中で整理しながら使うということを強いられたのではないでしょうか?
まあ、慣れてしまえばそれほど悩まずに使えるようになりますが、我家の水栓は古く、下げると止まるタイプなので、ホテルなどに行って戸惑うことは未だにあります。
これで出てきたのが水だから良いですが、熱湯だったらと思うと怖いですよね。
ここで重要なのは「規則の整合」です。
やはりいろいろな種類があるというのは公共の場では危険を伴うことがあります。
 
そう考えると、家の中でも階段などは「規則の整合」があるから転ばずに登れますが、通路面にある段差というのは「規則の不整合」となりつまづいたりする訳ですね。
なんだ「生体医工学」的な事は私たちが普段行っている設計業務や福祉住環境整備の場面で結構出てくる話なんだ。
 
安全サイドで考えるとなるべく直感的で単純な方が良いということになりますが、そこに結論付けるだけでは駄目。
人間はともすると楽な方に流れがちですが、それは一方で生活不活性病と同じベクトルにあるとのこと。
ここが難しいところで、「だから家の中にも多少の段差は必要なんだよ」という設計者も出てきてしまう。
私はやはり家は安全がベースだと考えます。
生活の活性化は家の外でやるべきです。
 
それを実践している人たちが柏崎に居て、先生と一緒に試行錯誤を繰り返しています。
それが「笑足ねっと(わらかしねっと)」の白川さん。
身体の様々な能力を複合的、協調的に高めようという「コーディネーショントレーニング」をこども達やお年寄りと行っています。
いわゆるパワーリハとは視点が違い、単純な運動機能向上ではなく、あくまでも協調を目的としており、それを通してコミュニケーションも養います。
講演の合間にインストラクターのはるさんと会場の人が行いましたが、終始笑い声の絶えないトレーニングで面白かった。
これは三条でもぜひ行って欲しいところですね。
 
とても参考になったのは人間社会の捉え方
「長命社会」という言葉がありますが、こちらは人間の命の長さを尺度とした言い方に過ぎません。
目指すべくは「長命社会」ではなく「長寿社会」。
つまり質重視の福祉住環境構築です。
 
先生のお話を伺い、私達がネットワークで目指し実践してきたことが間違ってなかったことを改めて確信いたしました。
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