終の棲家

今日、昨年末に引き渡したリフォーム物件の取材があった。
この家は「裏館の家-終の棲家」と名づけさせてもらった。
もともと14年前に私が設計した物件をリフォームしたのだ。
 
14年前は2世帯5人家族だったので、「家族のため」の家造りだった。
その後、おばあちゃんは無くなり、娘二人は嫁いだ。
ご主人はこの家を家族のために造ってから事業を起こし、大成功を収めた。
しかし、志半ばで病に倒れ、他界。
ご主人の残した会社は奥様が社長になり、娘夫婦も手伝って盛り上げている。
娘さんの家も設計させてもらい、この家族とは長い付き合いだ。
一昨年、奥様から「私も独りになったし、終の棲家を作りたい」という連絡を頂いた。
今まで一生懸命家族のために働いてきた。
今度は自分にご褒美も良い頃だろう。
ご主人が残した家をその原型を残しつつ、大幅にリフォームを施した。
 
もともと洋風な外観だったが、今度は落ち着きのある和風のアプローチとした。
地面から床までの高低はスロープと段差で処理しているが15㎝を超えることはない。
これで車椅子による移動も可能となっている。
 
広い玄関土間は趣味人でもある奥様のギャラリーとした。
内開きの玄関戸で招き入れると心地よい空間が出迎えてくれる。
 
玄関脇の部屋は客間としての和室である。
この部屋はもともとおばあちゃんの部屋で、庭はご主人が親孝行しようと小さいながら立派な日本庭園になっている。
今はご主人とおばあちゃんの仏壇が入り、その庭を楽しんでくれている。
和室から眺める庭の風景はアプローチ脇の東屋が周囲の雑多な空間を隠し、街の真ん中とは思えない静かな環境になった。
新たにライトアップを計画したが、この部屋での酒はさぞかし美味しいことだろう。
 
玄関土間の奥はリビングになっている。
折り返してキッチンがあるが、間仕切りは天井までの高さとし、開け放つと一体的な空間となる。
キッチンや食器棚をこの家のためにデザインしたが、ちょっとした大人の隠れ家的になっている。
 
2階はプライベート空間。
ワンルーム化したパウダールームは朝は一日のスタートを喚起し、夜は一日の疲れを癒してくれる空間だ。
透明感のある浴室はそのまま寝室のバルコニーに繋がる。
 
三条の水害や中越地震などで1年も工事が遅れてしまったが、この新しく生まれ変わった家は「主のため」の家として精一杯考え抜いた。
 
作品集
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