ドイツのエコファーム

事務所の整理をしていたら見つけた’98年の建築士会会報への寄稿分。
今読んでも通用する内容でした。
忘備録代わりに投稿しておきます。
たしか、写真も当時はフィルムでスライドになっているはずだから、探してみる事にしよう。

「ドイツのエコファーム」

今年の1月にドイツへ行く機会に恵まれました。
その際、訪問したミュンヘン郊外の農場が深く印象に残りましたので、ご報告させていただきたいと思います。

この農場はヨーロッパ最大の食品加工業者の「ヘルダ・ヴォルスト」(年商1,200億円、従業員5千名)の3代目オーナー、シュバイスフルト氏が会社を売却、ミュンヘンから東南東へ車で数十分、アイイングという町の周辺に175ヘクタールという広大な土地を買い取り、シュヴァイスフルト財団により運営されています。

戦後デリカテッセンの工業的な大量生産に踏み切り、流通システムを欧州全域に拡大していった氏が問題意識をエコロジーへと向け始めたのが1970年の半ば、彼の3人の子供たちがこんな添加物がたくさん入った食品を製造する会社を継ぎたくない、と言ったのがきっかけであったと聞きます。

自然な循環(エコロジー)を私たちの生活や社会に持ち込もうとするとき、直面するのが現代の産業構造ではないでしょうか。大都会における大量消費に対して、産地から膨大な交通といったエネルギーをもって、運んで来なければなりません。また、生産から消費までの時間や大量生産によるストックのため、生産される食品には防腐剤などいくつかの薬品が使われ、我々はそれらも含めて口にしなければなりません。輸送のためのパッケージもゴミの問題を残すでしょう。

この農場では商圏を40~50Kmと限定することでいくつかの問題をクリアしています。
材料も生産も消費もクローズな地域で行うという考え方は、添加物も冷凍庫付きのトラックも必要となくなります。ここでつくられる肉やハム、ソーセージ、その他乳製品などはこのファーム内のファーマーズ・マーケットかミュンヘン市内の契約している食肉店で手に入れることができます。牛や豚の放し飼いをすることで、家畜のストレスが減り、その結果、病気をしないので抗生物質の投与をしなくても済むという安全な食肉はミュンヘンの消費者に受け入れられているようでした。

また、このファームではエネルギーや廃棄物処理の問題にも一つの回答を示しています。
ここで排出される人や動物の糞尿や残飯はバイオ分解され、メタンガスを発生させます。このバイオガスを燃焼させ、タービンを回して電気を供給しているとのこと。しかも、施設内の部門別に稼働時間のずれをつくり、エネルギー負荷の平準化を行います。
ガスを発生した残りはコンポスト化し、農場の堆肥として利用します。
水も貴重な資源として再利用します。排水はすべて浄化池に導かれ、池の微生物によって汚物を分解させます。こうした池は幾重にも連なり、最後に酸素を加えることで、生きた水に生まれ変わり、中水として施設ないで利用されているのです。

このファームが活動を始めて6年が経ちました。
採算的にはようやく目途がついてきたとの説明に力強さを感じることが出来ました。
財団の本格的な活動はこれからでしょう。
私たちの脇で明日のドイツのエコファーマーたちが何度も頷きながら話に聞き入っている姿が印象的でした。

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